2016年10月17日

馬券生活者〜謎の関西人

ご訪問ありがとうございます。

本日は、コンビニをやっていれば、必ず遭遇する記憶に残るお客様の話です。良くも悪くも、さまさまなお客様がご来店されます。そして、店舗を舞台に、様々な人間ドラマが演出されていきます。そして、知らず知らずの間に、そのドラマの重要なキャストになってしまっている場合がある。経済的ダメージを被り、いい社会勉強をさせてもらったことも多々ある。

しかし、本日は、少々レアな部類のネタになるのではないかと思う。


最近、あるクリアファイルを発見して、そのお客様のことを思い出しました。全て処分したはずだったあるコピー済み用紙が何枚か残されていた。

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その方は、ご近所で独り住いをされていて、ある日突然、現れました。モロ関西弁丸出しで、一人ツッコミをしていつも笑いの絶えない方でした。年は70代前半で、昔は、報道機関で長きにわたりご活躍されていたという。突然、政治ネタ、国際政治ネタを振られて、返答に窮したことがある。その洞察力と、鋭い切り込みには、賛否両論あるだろうが、歯に衣を着せぬ方だった。


「にーちゃん、ほんま、〇〇(政治家等)はアホやな。そう思うやろ?」

レジ前で、まるで吉本芸人のノリで、盛り上げてくれる。他にお客様がいなければいいのだが、彼の目には他のお客様は単なるギャラリーに映るのかもしれない。平気で話しかけて、同意を求めたりする。

困惑した他のお客様は、(困ったおじいちゃんだよね?)というアイコンタクトを送ってきたりする。また、露骨に、周囲のお客様から、

「うるせーんだよ、ジジイ!」

と不快感をあらわにされて、一触即発の状況に陥ることもあった。そして、時として口論となる場合もあった。

しかし、白熱した議論も、その関西オヤジは、実にうまく落し所を見極めていた。

「あんなー、70過ぎのジーサンをあんまいじめんといて・・・」
(完璧に再現できませんが、このようなことを言っていました。)


関西系芸人の勝利なのだろうか。実に話がうまく、まるでテレビで老キャスターを見ている雰囲気があった。

そんな芸人オヤジが、某日曜日の朝、興奮して、怒鳴り込んできた。

「店長! やったでー、マンシュウや! 見てみぃ、これ!」

切り取られた、スポーツ紙の競馬面をレジ前に叩きつけた。

マンシュウ?麻雀?何言ってんだ、このオヤジ。

そうか、競馬で、万馬券を取ったということかとすぐに理解はできたが、そのあまりの興奮の仕方が異様であった。

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でも、なんだか胡散臭いと思った。


それからの出来事で、徐々に芸人オヤジの秘密が分かってきた。

無職ではあるが、競馬で毎月200万円近く稼いでいるらしい。一点1000円で、基本的に枠連勝負とのこと。ベースは、日刊スポーツの朝刊を使う。また、年末に本屋で売り出される定番の、高島易断の暦を利用していた。

そして、日曜日と月曜日の朝は、必ず店に現れて、勝ち戦の自慢話に付き合わされる羽目となってしまった。

さらに、高額配当(7000円以上、つまり、7万円以上の払戻)があった時は、ご祝儀と称して、500mlのキリンのクラシックラガーを一本ゴチしてくれた。

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ちなみに、この特典は、店が移転(閉店)する直前まで、ほぼ毎回ゲットしていた。当時で、1本270円代だった記憶があるが、ずる賢い私は、芸人オヤジが退店した後に、それをレジで払戻をして、ポケットマネーにしていたなどどは、口が裂けても言えないだろう。(苦笑)

そして、勝ち続けるオヤジは、前日の収支を綺麗に手書きで書いて、自慢げに私に見せるのが定例となってしまった。

正直、これは、少々ウザかった。確かに、500缶ビールのおまけ付きだが、自慢話が延々と続く。かなり、仕事に支障をきたしていた。なにしろ、一人勤務で、やることが多すぎる、朝の時間帯である。

「それじゃ、それ、コピーさせて頂いてもよろしいですか?」
「ぜひ参考にさせてもらって、勉強してみます。」


そして、スポーツ紙の切り抜きと収支計算書をコピーすることで、一区切りつけることに成功しました。

「じゃ、コピーしますね。」と言って、芸人オヤジを自然にコピー機の近くまで誘導する。

コピー機がちょうど出入り口の近くに置いてあり、コピー後に芸人オヤジに原本を返すと、そのまま大人しく満足げに店を後にするというパターンが見事に出来上がった。あくまでも、勉強するというのはリップサービスであった。この時点では、まだ信じがたい、芸人オヤジの狂言と思っていた。

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スポーツ紙の切り抜き



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収支計算表






当初は、このオヤジ、本当かよ?という感じで、ほぼ聞き流していました。

そもそも、ギャンブルで生活できるなら、そんな美味しい話はないだろう。

負けて、破産、もしくはその直前まで入れ込んでしまうのが、博打だろう。

いや、競馬は、博打じゃねー、スポーツであり、自分の記憶と感性とデータで勝敗を推測する高度な投資だ、と熱く語る御人もいらっしゃいます。

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しかし、私は、個人的にはギャンブルという認識だ。

この関西芸人爺さん、場末のコンビニオヤジを騙して、そのリアクションを見て喜んでるんじゃないのか?

いや、仮に、そうだとして、芸人オヤジに何のメリットがある?

私を騙して喜ぶために、手の込んだ、手書きの収支計算表ををわざわざ作るだろうか。わざわざ身銭を切って500缶ビールをゴチするだろうか。手が込みすぎだろう。

さらに、その後、そのオリジナル法則を開発してからの、古ぼけた収支ノート(投資金額と回収金額のみ記入)を4〜5年分を見せてもらったが、最初の頃は、30万円くらいの利益であり、その後、70〜80万と増えて、当時の直近では、250万円以上の利益を手にしていた。

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また、当たり馬券を見てなかったが、聞くところによると、馬券購入はアルバイトを使って、電話で連絡して、買ってもらっていたという。一開催、1万円のギャラで、万馬券が出ればスペシャルボーナスを支給していたという。

また、競馬のない平日は、銀座に入り浸り、行きつけの高級クラブで豪遊していたらしい。来店のたびに、スタッフ一人一人にチップをはずんでいたと自慢していた。中でも、ナンバー2の古株の女性に、万馬券が出れば、無条件で1万円献上していたという。


「本当かよ、ありえなくねぇ?」


やはり当初は作り話として聞き流していたが、ある日、そこのお店から来たという暑中見舞を見せてもらい、否定する根拠がなくなった。

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丁重に、綺麗な女性の文字で日頃のごひいきに対する感謝の気持ちが記されていた。もちろん、店名、住所、電話番号が載っていた。

仮に、でっち上げだとしても、一体、何のメリットがある?

コンビニオヤジをそこまでして騙して、何の得がある?

もう、素直に、全面的に信じるしかないだろう。


世の中、本当に馬券生活者なるものが存在するんだ、とつくづく複雑な気持ちになった。

こちとら、日夜、休みなく働いて、Max40万そこそこ(当時)。銀座の豪遊なんて夢のまた夢。


「真面目に働くのがあほらし、俺にもできないかな。マジで。」


毎週、毎週、30万〜40万を少しの労力で手に入れている人間を目の当たりにして、その真似がしたくなるのは、貧乏人間として当然の成り行きであり、やむをえない思考回路と言えるだろう。


実は、芸人オヤジは当初、その秘密のセオリーについては、あまり語らなかった。また、他人の馬券を乗せると(一緒に馬券を買うと)ツキが逃げるから、それは絶対にしないと言っていた。

しかし、時間の経過とともに、その秘技が徐々に公開されていった。


「いやな、電話機の番号を見てひらめいたんや。あと、開催日の暦を見て、その日が六白金星なら6の日や。」


断片的ではあるが、耳にタコが出来るほど聞かされていたので、自然とその基本的な理論だけは覚えていた。

1. 九星でその開催日の基本数字を特定する。
2. その数字により、基本の枠が決まり、買い目も決まる。

基本数字 1 4 7 
→ 1枠 4枠 7枠中心
→ 基本買い目=1-4,1-7,4-7

基本数字 2 5 8 
→ 2枠 5枠 8枠中心
→ 基本買い目=2-5,2-8,5-8
  
基本数字 3 6 9 
→ 3枠 6枠 8枠中心
→ 基本買い目=3-6,3-8,6-8
(9に関しては、258でも可)

3. 日刊スポーツ朝刊の競馬紙面で、レース総評の囲いのコメントが激戦等の波乱含みのレースを狙う。

ここまでは、機械的に買い目を出せるが、以下の項目が難解である。

4. 基本数字で総流し 
→7が基本数字なら、7から全部の枠を買う。(7点買い)

5. 8枠ある場合、1枠から4枠と5枠から8枠とに2分割して、荒れそうな方を総流しする。基本は、基本数を含む方で総流しするが、その中に人気枠が存在する場合は、違う方を総流しする。(6点買い)

6. 基本数字には、それぞれ穴枠がある。

147→穴2枠3枠
258→穴7枠1枠
369→穴7枠1枠

7. 大安はゾロ目が来やすい。

8. 前走9着は枠に絡んでくる可能性がある。


よし、やってみよう。全12レース基本筋のみの三点買いでいい。一つでも高配当が来れば面白い。いきなり馬券は怖くて買えないから、とりあえずシュミレーションしてみよう。

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見事に完敗




その日は、基本路線ではなくて、アレンジ路線(上記456)へ流れたので、その方法で見ていれば、かなり面白い体験ができたはずだった。


結局、芸人オヤジは、肝心なところを隠していた。いや、語らなかったのだ。それは、レースの仕分けの方法と、基本路線でいくのか、アレンジ方法で攻めるのかの判断の仕方だ。素人にはその判断が出来る訳がない。そういえば、オヤジがよく言っていた。

「いきなり金をかけないで、初めはシュミレーションでやる方がええよ。そして、コツをつかんだら、100円から始めればいい。」

「基本セオリーはほぼ教えたで。あとは、自分で試行錯誤を繰り返して、独力で自分の必勝パターンを作り上げることや。」


そう、オヤジは、ツキが逃げるから全てを語らなかったのだ。(と思う。)

時間があれば、のめり込んでみたかったが、結局奴隷身分の私には、時間がなさすぎた。
  
博打の世界もそう甘くはない。



某土曜日の朝、オヤジがやって来て、いつもにない行動を見せた。

「店長、今日は、これで連絡入れるで。見ててみぃ。」

そう言い放つと、無造作に紙切れを手渡した。そこには、数レースの買い目が書かれていた。

「やった、これを買ったら、少なくとも10万以上は稼げるはずだ。ネットですぐに買おう。」

私は、当時オヤジに刺激されて、JRAのIPAD(会員制ネット投票)に加入していた。

しかし、残高がゼロで買えないじゃねーか!

シフトが午後まで入っていて、後楽園にも買いに行けないだろ!


目の前の万札が逃げて行く!!


翌日、早朝、朝刊の到着ともに逃がした魚の価値を確認する。


嘘だろ!!



目を疑った。





全滅完敗




あの、競馬の神様がかすりもしなかった。今まで、かなり苦戦した開催日も確かにあったが、必ず1レースは穴を引き当てて、収支をプラスにしていた。


そして、その日の朝は、初めて来なかった。

しかし、翌日、月曜日の朝は、いつものように新聞の切り抜きと収支計算表を持ってきて、何事もなかったように熱く語っていた。なぜか、前日の話はなかった。


「昨日、見事に全部外しましたね。どうしたんですか?」


と突っ込みたかったが、出来なかった。熱く語るオヤジの熱気に押されて、そんなマイナス的出来事を持ち出すタイミングがなかった。

オヤジは、たまたま負けただけなのか、それとも、ついにボロを出したのか。

やはり、身寄りもなく、楽しみもそれほどない老人が、暇つぶし的に、羨望と驚きの私のリアクションを見て、密かに喜んでいるのだろうか。

全レース終了後に、そのオヤジのセオリー通りにはまっている的中レースを拾って、表に書き込んでるんじゃないのか?

ビールのおごりも、事実の裏付けのためのパフォーマンスに過ぎないんじゃないのか。

銀座豪遊店からのハガキの件も、たまたま数回行って、その後の単なる営業のハガキなんじゃないのか。

疑いだしたらキリがない。

そして、ある日、私は突っ込んだ提案をしてみた。

「JRAの会員になっていてパソコン、携帯から馬券を買えるんですよ。もし良かったら、馬券買いましょうか?ギャラは一切いりません。日頃、店をご利用いただいていますので、それぐらいお役に立てればと思いまして。」

関西オヤジは、一瞬微笑んだが、ノーコメントだった。


限りなく、怪しいだろ。

ノーコストで馬券が買えれば、そんな美味しい話はなかろう。

それを拒否する理由とは、なんなんだろう。

本当に、馬券買ってんのかよ。

いや、もう、分からない。

そう、もうどうでもいい。

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それよりも、来週のシフト、来月の利益配分の方が心配になった。


そして、私は、その後も移転閉店まで芸人オヤジの勝馬券劇場に付き合い続けた。

そして、500缶ビールもゴチになり続けた。


「じゃ、店長、たっしゃでな。」

最後のセリフは妙に鮮明に記憶している。



好むと好まざるに関わらず、株で500万円儲けた、競艇で60万勝った、パチンコで20万勝ったなどと景気のいい話が飛び交い、半信半疑でも、羨ましい、オレにも真似できないかな、とマジで考えてしまう自分がいた。

不安定な経済基盤で、日夜生き地獄、そして無間地獄を体現していた自分が、少しでも金の匂いがする領域に興味を引かれるてしまうのは止むを得なかった。

幸い、ギャンブルにハマる時間も金もなかったため、被害は、最小限度で食い止めた。


貧すれば鈍する可能性が常に付きまとうのも、コンビニオーナーの宿命なのかもしれない。


ご訪問ありがとうございました。


(お願い)馬券のご購入は自己責任でお願い申し上げます。また、関西弁の再現表記に関しましては間違いがあるかもしれませんが、その辺はご理解を賜りたくお願い申し上げます。


posted by Sun9 at 22:56| Comment(0) | 事件簿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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