2016年04月23日

Flashback 戦力外通知

ご訪問ありがとうございます。

本日のストーリーも、時としてフラッシュバックし、やるせない気持ちにさせられる。




「そちらで、○○、日本名△△という人働いてました?」

「はい、確かに以前に働いていました。確か○○年位前だったと思います。」

「そうですか。実は、近くの道端で倒れていて、亡くなっていたんですよ。身よりもなく、住所もわからなくて。ただ、財布の中に、おたくの連絡先があったので・・・」

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「えっ、そうなんですか。それって、のたれ死にってことですか?」

「そうかもしれないね。」


私は愕然とした。

元店長の悲惨な結末を聞いて、複雑な気持ちになった。

時期的には、店の状況が好調な時だった。

比較的近所に住むPという20才位の成年を雇い入れた。

「自分のおじいちゃんは北朝鮮出身で、僕は在日3世になります。もちろん、生まれた時から日本にいるので、
日本語しかしゃべれません。日本名は○○ですが、今は、本名のPを名乗ってます。」

確か、不鮮明ですが以上のような内容の話しをした記憶があります。

彼は、頭がキレたのか、仕事を覚えるのが異様に早かった。また、仕事に対する姿勢も完璧で、ヤル気も十分感じられた。また、周囲のスタッフからも絶大な信用と信頼があった。

そして、私は、躊躇なく彼に<店長職>を打診した。


「オーナー、そのお話、有り難く引き受けさせてもらいます。」
「だだし、一つ、お願いがあります。」

そのお願いが、また想定外の衝撃的な内容だった。

「オーナー、多分もうお気づきかと思いますが、私以外の夕方、深夜の連中は全員パクリ行為をしています。
自分が、一人づつ話をして、絶対にパクリを辞めさせますので、総入れ替えは勘弁して下さい。」
「今回に限り、私に免じて、どうか許してやってください。お願いします。」

確かに、当時棚卸しロスが多かった。売価で、100万円以上という不名誉な記録を打ち立てたのも当時だったような気がする。正直、私はまさか昼間のパートさん以外、全てのスタッフが内部不正に染まっていたとは気がつかなかった。いや、原因はそれ以外考えられなかったのに、真剣に原因究明を怠っていたに過ぎない。

しかし、マジ胸くそわるかった。

気持ち的には、総入れ替えをしたい衝動にかられたが、いきなり大人数処分したら店が回らなくなってしまう。ここは、Pの手腕に頼るしかないだろう、と決断せざるをえなかった。

「信じたくないが、そうだったのか。じゃ、内部改革に取組んでくれ。よろしく頼む。」

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その後、Pは見事に結果を出した。棚卸しロスは確実に減り、パクる輩もいなくなったという報告を得た。

そして、彼は、以前にも増して仕事に没頭してくれた。特に、不正の温床となりやすい店舗内外、バックルームのクリンネスにこだわっていた。また、夕方シフトのスタッフの顔を見てから帰宅するという日もあった。彼の深夜シフトの時間帯22時〜8時を終えても、店に残留して、自らサービス残業をしていた。

「自分のシフトに影響するから、早く帰って寝てくれ。」

何度、同じ事を言ったことか。そして、遂に、杞憂が現実となる。

次第に遅刻がちになり、日ごとに遅刻癖が悪化していった。

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まともにシフトインする日がなくなり、必ず遅刻をする。ひどい時は、2時間以上も遅れる。夕方勤務の高校生も22時以降は働けない。やむを得ず、相方のワンオペにならざるを得ない。

「オーナー、店長何とかして下さいよ、もう限界ですよ、みんな。」

ぶち切れ気味でそう言うスタッフの気持ちもよく分かる。22時から1時までは、そこそこお客様がやって来る。
それを一人でやらされたら、たまったもんじゃない。

私は、何度も厳重に注意したが、遂にXデーが来てしまった。


某日の深夜、彼は遂に無断欠勤してしまった。そして、替わりに私が出るハメになってしまった。

これ以上、もう彼をフォローできない。他のスタッフの手前もあり、彼だけ、大目に見る訳にはいかなかった。
毎日、必ず遅刻してくるPに対して、ドタキャンは想定内の出来事だったが、もはや、彼を弁護する者、彼の味方は皆無だったのは想定外だった。

当然かもしれない。仕事が出来ても、基本的な出退勤が出来ずに、周囲に迷惑かけ放題では、愛想をつかされるのも当然の成り行きだろう。

そのドタキャン後に、彼を目の前に置いて静かに、語った。

「もうこれ以上、君をフォローできなくなってしまった。他のスタッフが、遅刻、ドタキャンしても、注意出来なくなってしまっている。周囲ももう限界に達している。君には、充分すぎる程チャンスを与えて来たが、もうかなり厳しい選択を迫られている。」

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「それって、もしかして、オレ、クビってことですか?」

「残念だが、やむを得ない。」

かれは、トレードマークの長い皮のトレンチコートを無表情に着込んで、静かに、無言で出て行った。


本当に、残念だが、仕方なかった。

厳しく、何回も切実に注意した。お願いした。でも、彼には改善できなかった。店長だけ、大目に見るのも限界があった。泣く泣く、下した決断だが、悔いが残った。あれだけ店のために尽くした人間をこんな簡単に切ってしまっていいのだろうか、という躊躇の念と、時間を守れないルーズな人間は、店の秩序のためにも粛正しなければいけないという義務感との葛藤に陥り、私もかなり悩んだ。

Pには、幾度となく充分にチャンスを与えた。それを活かせなかったPの責任はやはり重大だ。仮にも、店長だ。店長が慢性的に遅刻をして、ついにドタキャンをした。多分、ドタキャンも常習化するだろう。

やはり、諦めるしかないと決断しました。


Pは近くに住んでいたが、その後、引っ越しをしたのだろうか。父親と二人暮らしだった筈だが、一人きりになってしまったのだろうか。もはや、ホームレス状態だったという事か。

警察から連絡があったとき、「えっ、そんな遠くで?」と感じた記憶がある。彼は、確か、外国人登録証なるものを持っていて、いきなり職質される事があると言っていた。国に目を付けられてるんですよ、と言っていたが、それすら、所持していなかったのだろうか。

そして、当店の連絡先は後生大事に財布の中にしまっていたという。

韓国大使館に相談できなかったのだろうか。生活保護とか行政に助けを求めなかったのか。

なぜ、私に連絡するなり、顔を見せるなりしなかったのか。
迷惑をかけたくないと思ったのか。

いや、無一文で、それすら不可能だったのかもしれない。

天涯孤独となってしまって、腹を空かせて、一夜を明かす事すらままならない時もあったに違いない。
不安と絶望で発狂してもおかしくない。

自殺の二文字も頭によぎっても不思議ではないだろう。

彼は、何を思って行き倒れて、何を感じて死んで行ったのだろうか。

もはや、考える気力もなく、感じる意識もなかったのか。



ほんの一本の電話でもくれたら、なんらかの力になれたかもしれない。

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電話番号が分かっていながら、なぜ連絡出来なかったのか。しなかったのか。

それほど、彼への戦力外通知は彼にとっては苦痛であり、屈辱であり、精神的ダメージを与えてしまっていたということか。


ふと、いまだに思い出して考えてしまう。

やはり、クビは間違っていたのか。

一定期間の休職、シフト時間帯のコンバートで対応できたのではないか。
彼の話しをもっとよく聞くべきではなかったのか。

考えたくはないが、戦力外通知が彼の寿命を縮めてしまったんじゃないのか。


何かしら、力になれたのではないかと、本当に悔やまれて仕方ない。


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今は、静かに、元店長P君の冥福を祈るしかない。

posted by Sun9 at 12:51| 事件簿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする